私にとって絵画とは色と形によるパズルゲームのようなものだ。完璧な調和を得るには慎重にピースを組み立てていかなければならない。
大沼佑介はインターネットの発展により視覚情報がオーバーロードしている現代社会における具象絵画のあり方を追求している。
彼はSNSや雑誌、映画などあらゆるメディアから節操なく主題を引っぱってくるため、描く対象も多岐にわたる。風景や人物、静物のといったオーソドックスなテーマはもちろん、時には使い古しの壁のシミやクジラの鳴き声などを創造のきっかけにする事もある。
大沼は19世紀以前の西洋絵画における光と影の処理法と東洋の水墨画や浮世絵に見られる輪郭線とを独自に統合する表現スタイルを約10年の研鑽の後に身につけた。
制作の中で本来モデルが持っていた特性、性質、国籍、ジェンダーなど、存在を形作るあらゆる要素はことごとく剥ぎ取られ簡略化されていく。
生成された色面パズルのような図像は構造上、非常に不安定であり、ごくわずかなズレが画面全体の破綻に繋がるような代物なのだが、それにより画家は本来芸術が内包している儚さ、脆弱さを徹底的に暴き出そうとしている。
彼にとっての絵画とは崇高なものでも愛おしいものでもなく、日々膨大に流れ込んでくる画像情報を管理しきれなくなった凡庸な脳が苦し紛れに吐き出した排泄物のようなものである。
そして一見簡単に吹き飛んでしまいそうなその絵画はイメージの吹き溜まりとも呼べるこの世界で危うい均衡を保ちながらかろうじて存在している。
パブロ・ピカソ、アンリ・マティス、アレックス・カッツ、エルズワース・ケリー、河原温
仕事中のアーティスト
芸術的ドメイン : 絵画 (5)